今月1日、政府備蓄米の大量放出によって、倉庫会社が受け取るはずの保管料が1カ月当たり計約4億6千万円失われる見通しであることが明らかになりました。廃業を検討する事業者もあるといい、SNSでは「今震災が来たらやばいのでは」「備蓄米制度が安全に保たれるのか」という不安も持ち上がっています。
”備蓄米ゼロ”で震災時は食糧危機の可能性
政府備蓄米は、国民の食生活を支える重要な制度であり、普段は約100万トンの備蓄が維持されています。これは10年に1度の不作や通常程度の不作が2年連続した場合にも対応できる水準とされています。
しかし今回の米騒動で、2025年3月以降、合計で約61万トンもの備蓄米の放出が決定、放出開始されています。このうち約31万トンは「買戻し条件付き売渡し」契約で主にJA全農が買受け、30万トンはアイリスオーヤマ、イオングループ、カインズなどによる買受が決定しています。
全体で見れば備蓄米の6割以上がすでに放出されたことに。市場に並ぶ米の供給は今後さらに安定するとみられますが、備蓄米の大量放出により、備蓄米そのものは現時点ですぐに補給されていない状態に。
これは将来的な備蓄体制の維持を妨げ、災害時の食料供給体制に影響が出る恐れがあるほか、震災などの災害時に食料が不足する可能性もゼロではありません。
一方、こうした懸念に対して小泉農相は「備蓄米放出はずっとではない、今大災害が起こっても、東日本大震災で使用した備蓄米は4万トン(だから心配ない)」とコメントしています。
小泉農相「東日本大震災でも使用したのは4万トン」
安いお米は店頭に並びました。小泉大臣の政治決断は率直にすごいと思います。
— 衆議院議員石川香織 @北海道11区(十勝) (@IshikawaKaori11) June 1, 2025
限られたスケジュールの中で対応された農水省職員や流通現場の皆様にも感謝申し上げます。
一方で北海道では昨日も震度4の地震が。安全保障上、備蓄米の数量や仕組みそのものの議論を並行して進めていく必要もあります。 pic.twitter.com/vAfXayK98N
現在の備蓄量は日本の年間消費量の4パーセント程度。
本人1人あたりの年間米消費量は約50.9kg(2022年データ)とすると、いま災害によって備蓄米をすべて開放するとなると、14日分がまかなえる程度であることがわかります。もし100万トンが手つかずの場合では36日分となります。
備蓄米の買戻しや補充がすぐに行われることが最も望ましいですが「需要があれば無制限放出」という備蓄米放出の計画がある以上、ある程度は個人の備えも必要になってきそうです。
※JA全農の出荷量は2025年5月30日時点で、全体の62%程度だと発表しています。現在は、1日あたり約4,000トンのペースで出荷を行っています。
備蓄米放出の時系列と量
初回放出(2025年3月)
農林水産省が2025年2月14日に備蓄米の放出を決定。
14万1796トン放出。「買戻し条件付き売渡し」でJA全農が約13万2,999トン(全体の約94%)落札。(出典:日本経済新聞)
第2回放出(2025年3月下旬)
3月26日から7万336トン放出。JA全農が6万6271トン(全体の94.2%)落札。買戻し条件付き売渡し。(出典:日本経済新聞)
第3回放出(2025年4月)
4月21日から10万164トン放出。JA全農が9万6925トン(全体の96.8%)落札。買戻し条件付き売渡し。(出典:日本経済新聞)
随意契約による放出(2025年5月)
5月26日、政府は随意契約により30万トンの備蓄米を放出することを発表。「買戻し条件付き売渡し」は適用なし→市場に出回ったらそのまま売り切り
備蓄米制度がなくなる不安も
そもそも政府備蓄米制度は、1995年に制定された「主要食糧の需給及び価格の安定に関する法律」に基づき、食料の安定供給を目的として導入されました。
政府は約100万トンの米を備蓄しており、これは日本の年間消費量の約1割に相当します。この備蓄米は、災害時や価格高騰時に市場に放出され、食料の安定供給を図る役割を果たしています。
しかし今回の騒動で倉庫会社が受け取る保管料が減少し、廃業を検討する事業者が出てきています。倉庫の存続が厳しいといった声もある以上、備蓄米制度にもほころびが出てくることが予想されます。
SNSでは「備蓄米制度自体がなくなってしまうのではないか」といった不安の声も出ている現状。今後の備蓄米の買戻しや、供給体制には今後注目が集まりそうです。