知床遊覧船の事故原因は?目撃情報とカズワン沈没までの状況についても

2022年4月23日、北海道知床沖で消息を絶った観光船について、これまでに発見された3歳の女児を含む14人全員の死亡が確認され、今なお12名の搭乗者の捜索が行われています。

乗客の家族や関係者の前でも会社社長からの明確な事故状況の説明はなされていないとのことで、観光船を知る人々からは「本当に痛ましい」「完全に人災ではないか」といった悲痛な声が上がっています。

現在までに分かっている事故原因とみられる情報と、会社の実態についてまとめました。

知床遊覧船の事故原因は?

専門家によると、今回の事故の直接的な原因は現在も船体引き上げが困難なことから調査が難航しており、詳細は明らかにされていません。

一方で沈没した船体の構造や専門家らの意見では

①日頃の整備不良のため亀裂から浸水した雪解け水などでエンジンが停止 そして 

②船長が天候を見誤り出港した結果、台風並みの高波と強風により岩礁に打ち付けられ座礁、さらに浸水を起こし一瞬で沈んだのでは

と見られています。

また新たに船長の求人を断ったという男性の話から、

本来は24時間スイッチを入れておく必要がある、船の底に溜まった海水を外に排出する自動ポンプ=オートビルジーの電源を、(買い換えたばかりのエンジン摩耗を防ぐため)切っていたことによるエンジン浸水が原因

という見方が強まっています。

 船長の求人を断った男性 「(オートビルジーを切っていたので)相当、船の下に“アカ”があったんじゃないかと。“アカ”のせいで、要は水にエンジンが海水に浸かり、エンジンが停止した。すぐ沈んだんじゃないかと」 ※“アカ”=船底に入り、溜まった水のこと

出典:HBC北海道放送ニュースすべてが“素人”でがく然、船長の求人断った男性語る実態…ありえないメンテナンス、船底に入る海水排出ポンプの電源オフ

地元の漁業関係者、同業者やその後の家宅捜索などによって、事故の背景には運営会社の杜撰な安全管理の実態が明らかとなってきました。船長の経験不足、ブラックと言われる労働環境、船の管理不全などが重なり「起こるべくして起こった(元従業員談)」人災であることも指摘されています。

遊覧船にとって命取りの条件が揃っていた

今回の事故は「起こるべくして起こった事故」と言われています。

これまでに明らかとなった、事故を誘発した運営体制とは・・

観光船は外洋向けでなく、波や風に弱い遊覧船を使用していた

命綱とされる事務所の無線機が数ヶ月前に故障、修理せず船の衛生電話も故障しており、代替として違法とされるアマチュア無線を業務に使用さらに社長の携帯電話の電波は圏外で、社長は事務所に不在。日常的に連絡の術がなかったと見られる

沖に出ると天候が良くてもうねりが強く出る。地元でも船の操縦は難しいが、船長は経験が浅く天候も確認していなかったと見られている。さらに当日は外洋から陸地に向かって突風のような北東の風が吹いていた。(強風注意報、波浪注意報発令

度々事故を起こしており、昨年から船首に15cm以上の亀裂、度々水の出入りあるも修理せず

社長交代でベテラン従業員がゼロに、経験の浅い従業員数名で運営。

昨年座礁事故を起こした船長が続投していた。

など。

地元の漁業関係者も船を出し捜索に参加。この海域は船の操縦も難しいといいます。
「知床半島沿岸、オホーツク海を臨むことができる場所です。海面からゴツゴツとした岩が出ている岩礁をいたるところで確認することができます。」
(地元漁港の漁師)「あそこは沖なので、急に風が吹いてきたりとか、すぐ波が出てきてっていうのはあると思いますね。地形でいえば遠浅ではないので、岩場なので座礁しやすいというか、滝に近づけば見誤るというか…」
当時、海は3mほどの波があり、強風と波浪注意報が出ていました。

・海水温は4度(夜間は2度にまで低下)陸路もなく海路も空路も命がけの厳しい大自然

会社社長は事故当日の出航について「いけると思った」と述べていますが、亀裂については「知らなかった」と答えるなど、最高責任者が情報を提供できない状態になっているようです。

この日は、漁業関係者の間では前日から天候が悪くなることが知られており、午前11時ごろからは北西の風(外洋から陸地に向けた風)が急速に風が強くなったとされています。(当時、強風注意報、波浪注意報発令救助を要請した午後1時過ぎには風速15~20m、波の高さは1.9m、後に3mに達した)

しかし出航地点のウトロ港では波は穏やかであったため、豊田船長が天候を見誤り出航した可能性が指摘されています。

会社と船長の判断ミス

数ある原因の中でも早くからその異常性が指摘されていたのが「出航判断」でした。

事故当時、事故を起こした観光船「KAZU I(カズ ワン)」は、斜里町観光協会ホームページによると、同じ観光ルートを航行する他の4社よりも、一週間早く営業を初めており、この日は運行開始から3日目、その初便(10時出港)でした。

会社社長は事故当日の出航について「いけると思った」と述べています。

この日は、漁業関係者の間では前日から天候が悪くなることが知られており、午前11時ごろからは北西の風(外洋から陸地に向けた風)が急速に風が強くなったとされています。(当時、強風注意報、波浪注意報発令。救助を要請した午後1時過ぎには風速15~20m、波の高さは1.9m、後に3mに達した)

しかし出航地点のウトロ港では波は穏やかであったため、豊田船長が天候を見誤り出航した可能性が指摘されています。

2mの波でも恐怖を感じる遊覧船

同業者「1.5mがボーダー。2mでは恐怖感じる」

カズワンと同タイプの遊覧船を所有する同業者の男性は「波が1.5m、というのが船を出すボーダーライン。2mを超える場合はお客様が恐怖を感じてしまうので絶対に船は出さない。」と話します。

斜里町の漁業関係者によると、地元の漁船はすでに午前中に引き返してきており、の時間帯に出港した船は「KAZU I(カズ ワン)」だけ。

「出港はやめたほうがいい。」と忠告すると豊田船長はこれに対して「はい」と答えたと言います。

しかし、この時の豊田船長の様子について『えっ』と言う顔をしていた」「おそらく(豊田船長は)天気予報を見るような人ではなかったのではないか」と語っています。

豊田船長の経験不足については、元従業員から「見習いから半年で船長になった」「ほとんど引き継ぎはしていない」といった証言のほか、実際に乗客が見た「豊田船長の様子」からも。

豊田船長は昨年6月に座礁事故を起こし、今年1月に書類送検を受けたばかりでした。当時の船に搭乗していた観光客の男性は「乗客に謝罪しながら泣いていた、ベテランとは思えなかった」と話しています。

航行時間3時間の「知床岬コース」は、1日に1便、10時出発となっていた 出典:知床遊覧船公式HP

目撃情報と沈没までの状況についても

「KAZU I(カズ ワン)」は、午前10時にウトロを出港。片道およそ1時間半をかけ、10箇所の観光名所を巡りながら知床岬で折り返し、午後1時にはウトロに戻る行程でした。

目撃されていた遊覧船と予想される船内の様子

出港直後の様子を実際に目撃した女性によると、

「知床半島は風が強く、時折突風も吹いた。(遊覧船は甲板に出ることができるようになっているが)外に出ている人は一人もいなかった」

とのこと。この頃の船内の様子について、専門家は「3mの波の高さというと、ほとんどの人が立っていられない、恐怖を感じるような状態。ほとんどの人が船酔いしていただろう」

とコメントしており、船内での状況は出港後まもなく、恐怖感を覚えるほどの状態であったことが予想されます。

通報時の会話

知床岬で折り返したとみられていますが、午後1時18分、折り返し地点から14キロほど(ウトロまで残り3分の2ほど)の地点で第1管区海上保安本部(小樽市)に救助を要請する118番通報が入りました。

「場所は(ウトロ港から約27km離れた)カシュ二滝のそば!」

「エンジンが使えない!」

「沈みかかっている。助けてほしい!」

さらに午後2時ごろ「30度ほど傾いている」という連絡を最後に「カズワン」からの音信は途絶えています。

その後、遊覧船の名簿にあった13名の携帯全てに発信したものの、いずれも繋がることはなかったとのこと。

現在も船に乗っていた12名の捜索が続いています。