害獣が嫌う匂い・効果的な対策は?ハクビシン・タヌキ・クマなどから食害を持続的に防ぐ方法とは

動物が最も子育てをしやすいこの時期、朝起きたら家庭菜園や庭木の果物をハクビシンや猪、熊などに食い荒らされていた、植え込みの隅に糞が残されていた。近所でクマの目撃情報が出た。という被害が年々増加傾向にある。

害獣を庭から遠ざける方法として、匂いを使った「忌避」が広く知られている。本能的に避ける匂いがあると言われているためだ。 しかし「どれが本当に効くのか」「なぜ効くのか」は意外と整理されていないかも知れない。

匂いによる害獣対策は、食害を防ぐ有効な方法

そもそも、なぜ動物は匂いで追い払うことが期待できるのか?

ペットをイメージするとわかりやすいが、野生動物の嗅覚は人間の数十〜数百倍とされている。 「より多くの匂いを感じる」というより、「匂いの種類を細かく区別する」能力が高い。

動物が特定の匂いを嫌う理由は、、大きく次の2つに分けられる。

① 天敵が近くにいる、と認識する
動物には天敵に襲われる危険から身を守るために本能的に反応する防衛メカニズムで、天敵の匂い成分を感知すると血中のストレスホルモンが急増したり、体が硬直するという。

オオカミや犬などの捕食者の尿・毛には「ピラジン類」という化合物が含まれており、 獲物となる動物の嗅覚神経を直接刺激して逃避行動を引き起こすことが実験で確認されている。

②ここにいては危険な場所だと認識する
木酢液の焦げた臭いは、山火事を連想させる匂いに近い。 木酢液の成分である酢酸・フェノール類が強い刺激臭を発し、 山林に生きる動物が本能的に危険な場所と判断して近づかなくなるとされている。

これまでのところ「これさえあればどんな動物も避けていく」匂いがあるわけではなさそうだし、「なんとなく臭いもの」でもダメなようだ。ハクビシン、タヌキ、クマのそれぞれに有効な成分があると言われており、対象となる動物を絞り適切な匂いを選ぶことで、効果が期待できると言われている。

しかしこの反応による害獣対策には、欠点がある。 同じ匂いを繰り返し嗅いでも「実害がない」と学習した場合、忌避反応は薄れていくのだ。匂いの忌避剤に持続性がないと言われるのは、雨や風で流される、という理由だけでなく、そうした動物による学習も考慮しなければならない。

害獣が嫌う匂い・効果的な対策は?

ここにハクビシン・タヌキ・クマのに効果的と言われる忌避剤をまとめた。害獣が頻繁に出没する場合は、自治体の鳥獣担当窓口への通報が最優先だ。 個人での駆除は鳥獣保護管理法により許可なく行えず、無断での捕獲・殺傷は罰則の対象となるため、傷つけることはないように注意したい。

ハクビシン:嗅覚が犬並みに鋭く、果実を好む・ため糞の習性がある。

雑食性で、柿・イチジク・ぶどう・とうもろこしなどの甘い果実を好む。 夜間に行動し、同じ場所に繰り返し糞をする「ため糞」の習性がある。 農研機構の実証実験で、匂いによる忌避の効果が最も広く検証されている動物だ。

  • 犬の毛
    犬の毛約10gをネットに入れて地上1mに吊るしたところ食害防止に成功した(農研機構がブドウ栽培園で実施した実証実験)。 効果持続は約1.5ヶ月。ブラッシング時の毛を収集して通り道(雨どい沿い・塀の上)に設置するという方法。
  • 木酢液
    ホームセンターで原液1.5L・650円程度で入手可能。「原液」表示を選んで。 原液をスポンジや布に染み込ませて地面から15cm程度の高さに設置するか、 ジョウロで敷地の入口・周辺に散布する。雨の後は再散布が必要だ。
  • カプサイシン
    唐辛子の辛み成分。市販の忌避剤に多く含まれる。 木酢液との複合使用で効果が増す傾向がある。 唐辛子粉末を水に溶かしてスプレーにする自作も可能だ。
  • ペパーミント
    精油をコットンに数滴含ませて設置する方法が報告されている。 揮発性が高いため、3〜5日ごとの交換が必要だ。

タヌキ:同じ場所に集団でため糞・夜行性・生ごみをあさる

雑食性で果実・昆虫・生ごみをあさる。 集団で同じ場所に糞をするため、被害箇所が集中しやすい。 有効な匂いはハクビシンと重なる部分が多い。

  • 木酢液
    タヌキの糞害対策として最も実績が多い。 糞をされた場所とその周辺に散布し、庭の入口など敷地全体への散布が理想だ。 原液を染み込ませた雑巾をハンガーにかけて吊るす方法も使われている。
  • オオカミ尿
    「ウルフピー」という名称で市販されている。オオカミはタヌキの天敵にあたるため、忌避効果が報告されている。 ただし実際のコヨーテや野良犬が引き寄せられる副作用の報告もあるため、周辺環境に合わせて判断が必要だ。
  • カプサイシン
    ハクビシンと同様に有効とされている。 刺激性の高い複合忌避剤との相性が良い傾向がある。

クマ(ツキノワグマ):匂い対策だけでは不十分——誘因物の除去が最優先

近年、住宅街へのツキノワグマの出没が増えている。 クマの嗅覚は犬の7倍ともいわれており、食べ物の匂いを数km先から察知するとされている。 他の動物とは異なり、匂いによる忌避よりも「誘因物の除去」を先に行う必要がある。

クマ対策で最初にすること

庭の果実(柿・栗など)の早期収穫または摘果を行う。放置された落果がクマを引き寄せる最大の要因だ。 果樹園で外周の柿の木を切除しただけで出没が減った事例が報告されている。 匂い忌避剤は、誘因物を除去したうえで補助的に使う位置づけとなる。

  • カプサイシン+木酢液
    東京大学名誉教授の指導のもと開発された複合忌避剤が、青森県内のクマに対して 100%近い忌避効果を示したという現地試験報告がある(総務省ふるさと財団事業)。 「熊をぼる」という製品名で市販されており、設置型と携帯型がある。 単成分より複合成分の方が効果が高いとされる。
  • ベアスプレー
    カプサイシン系のスプレーは、クマが接近した際の緊急対応用だ。 庭に設置するものではなく、農作業・ゴミ出し時に人が携帯するものとして用意する。

糞害には要注意・どう処分すればいい?

糞を見つけたときの衛生リスクがあることにも注意したい。糞にはさまざまな感染症のリスクが存在し、接触で感染、乾燥で糞の中にあった胞子や虫卵が飛散するということにもなりかねないため、放置せずに処分するのが安全だ。

エキノコックス症キタキツネやタヌキの糞から感染する寄生虫症。肝臓に寄生し、無症状のまま数年〜十数年進行することがある。北海道では特に注意が高い。

レプトスピラ症タヌキや野生動物の尿から感染する細菌感染症。水たまりや湿った土壌を介して皮膚からも侵入する。

アライグマ回虫ハクビシンが同じ場所に繰り返し排泄する「ため糞」に含まれる場合がある。卵が乾燥後も数年生存する。

サルモネラ・カンピロバクターハクビシン・タヌキの糞から検出されることがある食中毒菌。糞の近くで野菜を育てている場合は特に注意が必要だ。

糞を発見したときの対処

素手では絶対に触らない。使い捨てゴム手袋・マスク・ゴーグルを着用し、 糞と周辺の土ごとビニール袋に入れて廃棄する。 その後、熱湯または次亜塩素酸ナトリウム(家庭用漂白剤を希釈したもの)で消毒する。

乾燥した糞を箒で掃くと胞子や虫卵が飛散する。 乾いている場合は霧吹きで湿らせてからビニール袋で覆うのが安全だ。

匂い対策が「効かなくなる」理由と持続的に防ぐ方法

匂いによる忌避が一定期間で効果を失う最大の原因は、動物の「慣れ」だ。 同じ匂いを繰り返し嗅いで実害がないと学習すると、警戒心が薄れていく。 これは条件反射の消去と同じ仕組みで、すべての動物に起こり得ることだ。

策の種類効果の持続目安慣れのリスクコスト目安
木酢液の散布1〜2週間(雨後に要再散布)低(原液650円〜)
犬の毛の設置約1.5ヶ月ほぼゼロ(犬がいる場合)
カプサイシン系忌避剤1〜2ヶ月中(1,500〜3,000円)
オオカミ尿製品2〜4週間高め中(製品による)
複合忌避剤(複数成分)1〜2ヶ月低め中〜高

長く効かせるための3つのポイントは、同じ匂いを使い続けないこと、場所をずらして「天敵の存在感」を出すこと、誘因物を避けることだ。

① 匂いを定期的に切り替える
木酢液とカプサイシン系を月ごとに交互に使う。同じ匂いを使い続けない。

② 設置場所を変える
同じ場所に同じ匂いを置き続けると慣れが生じやすい。 動物の侵入経路に沿って位置をずらしながら設置する。

③ 誘因物を先に断つ
落果・生ごみ・ペットのエサの放置は、動物を引き寄せる最大の要因となる。 匂い対策はあくまで補助であり、誘因物の除去が最優先となることは念頭に入れておきたい。

匂い対策は「完全に来なくなる」方法ではなく、あくまでも「侵入のハードルを上げる」方法だ。 物理的な柵やネットと組み合わせれば、さらに効果が安定するとされている。

動物の本能的な警戒反応をうまく活用しながらも、根本的な誘因を断ち、動物を苦しめない方法も検討したい。

参考資料・出典
・農研機構「ブドウ栽培園におけるイヌの被毛設置によるハクビシン食害防止」
・総務省ふるさと財団「鳥獣被害防止忌避剤開発事業」(東京大学名誉教授・谷田貝光克氏監修)
・Osada K. et al. (2013) Pyrazine Analogues Are Active Components of Wolf Urine That Induce Avoidance and Freezing Behaviours in Mice. PLOS ONE
・日本有害鳥獣駆除・防除管理協会「タヌキ・ハクビシン被害防除ガイド」
・環境省「クマ類の出没対応マニュアル」(最新版)
・鳥獣保護管理法(環境省)※個人による捕獲・駆除には許可が必要