氷で発電、実用化も視野へ・局地の海水や宇宙の水で実現の可能性

人々の生活にごくごく当たり前に存在する氷。 「物を冷やす」物質、あるいは豪雪地帯では迷惑なものとして氷を思い浮かべるだろうか。

ほとんどの人は氷のポテンャルを見誤っていたかも知れない。それが地球の未来を拓く発電装置の代替品になるかも知れないからだ。

2025年9月、 スペイン・中国・アメリカの研究者チームが、権威ある科学誌『Nature Physics』に、常識を覆す新エネルギーの発見を報告した。

氷で発電、実用化も視野へ

それは「普通の氷は、曲げたりねじったりするだけで電気を生み出す」というもの。

発電条件は限定されるが、それをほぼゼロコストで繰り返し使え、実用性にもかなり期待ができる。莫大なコストと労力や原料の節約になる、まるで夢のような発見だ。

発電の仕組み

これまで「氷で電気を作る」ことは、長い間科学界の常識では机上の空論だった。

水の分子ひとつひとつは電気的な偏りを持っている(電気を通す)ものの、 氷の結晶になった途端にその偏りがフラットな状態で固まり、まるで電気を通さなくなる(絶縁体になる)ためだ。

しかし、何らかの方法で氷を曲げることで、分子の縮む場所と伸びる場所を生むことができるなら、電気的な偏りが現れ(フレクソ電気効果)電気を発生することができる。

論文ではこの「仮説」を実験で証明し、確かに電気、それも実用化に十分なほどの電力を発生させるという結論を導いた。

この実験の結果から研究者たちは、「雷ができる仕組み」もようやく納得できる説明ができるようになった。

積乱雲(入道雲)の中では、ものすごい量の氷の粒と霰(あられ)が ぶつかり合っている。このとき電気が生まれて、ある限界を超えると 一気に放電する——それが雷なのだが、「なぜぶつかると電気が出るのか」は長年、はっきり説明できていなかった。

今回の発見で、チームが計算してみると——ぶつかって変形した氷が生む電気の量が、 実際の雷の計測値と見事に一致したという。

氷の発電力はどのくらい?特性活かせば十分な量に

正直に言うと、純粋な氷を曲げて発電するだけでは発電量が小さすぎて、電子機器を動かすには力不足だった。

ところが2025年9月、同じ研究チームがさらに衝撃的な続報を 『Nature Materials』に発表した。

一つは、氷を−113℃以下という極低温まで冷やすと、表面のごく薄い層だけが 「電気版の磁石」のように変化する性質。コンピュータのメモリ素子にも使われる原理で、もう一つの発電経路にもなる。

また、塩を混ぜた氷を曲げると、発電量が純粋な氷の1,000倍になる性質だ。塩(NaCl)を溶かした水を凍らせた場合、間に塩の成分が入り込む。このときに氷を曲げると、境界線に沿って電気を帯びたイオンが移動し、電流を生み出すため、電気の発電量が増幅するのだそうだ。

純粋な氷の発電係数:約 1〜10 nC/m(ナノクーロン毎メートル)
塩入り氷の発電係数:約 1〜10 μC/m(マイクロクーロン毎メートル)
→ 1,000倍の差。単位がナノからマイクロに跳び上がった。

これは工業用の圧電セラミック素材に匹敵する水準に近づいてきた数値だ。 実験では円錐形の氷サンプルが最も高電圧を出力し、 繰り返し曲げても安定した発電が確認されている。

こうした特製を生かせるのは、「塩分を含む氷が永続的に存在する場所」だ。

それに加え潮の満ち引きや引力が「氷を曲げる」作用をすれば、想定される発電力は産業用の高機能セラミック素材に引けを取らないのだという。

高機能セラミック素材:ハイコストで高純度な原料と、緻密な成形・高温焼結などの複雑な工程を要する。

例えるならスマホのタッチパネルや医療用の超音波機器に使われる「専用素材」と同等レベル。工場で精製された特殊素材と、水を凍らせただけの氷が同じ土俵に立つということはすごいことだ。

「コストゼロの素材+塩という身近な添加物+自然の力だけ」という組み合わせ他の再生可能エネルギーにはない独自の強みだ。

「家の氷で発電実験」は可能か?

ところで、自宅で氷を使った発電はできるのかというと、できるらしい。

ただ、電気が出ることの”片鱗”を感じる程度なら可能だが、現実はかなり地味かも知れない。以下の3点がで、少し実験の難易度は高いせいもある。

① 純水に近いほど発電量が極小
論文で示された通り、純粋な氷の発電係数は約1〜10 nC/m(ナノクーロン毎メートル)に過ぎず、これは電子機器を動かすには不十分な水準だ。水道水の氷はほぼこの状態に近い。 Modern Sciences

② 塩入り氷でも計測器が必要
実験では専用の3点曲げ試験機を使い、氷を2つの支点の上に置いて上から押し曲げることで電気を計測している。生み出される電気はマイクロ〜ナノアンペア級の微弱電流であり、テスターや電球では検知できない。ピコアンペア計やオシロスコープが必要になる。 Phys.org

③ 氷の形と曲げ方が重要
実験では円錐形や曲面ビーム形など、最大の変形が得られる形状に氷を成形して計測している。製氷皿の四角い氷を手で押しても、均一な変形にならず効果がほとんど出ない。 jdsupra


それでも「やってみたい」なら

完全に再現はできないが、概念を体験する実験なら工夫次第で近づける。

工夫内容
塩水で作る濃度3〜5%の塩水(海水程度)を凍らせる。発電量が桁違いに上がる
形を工夫するシリコン型で薄い板状や弓型に成形すると曲げやすい
計測器安価なデジタルオシロスコープ(1万円前後)+高感度電流計があれば微弱電流を可視化できる可能性がある
電極氷の両面に銅箔テープを貼って端子にする

家庭環境でゼロから再現するのはややハードルが高く思えるが、ぜひ興味があればやってみてほしい。