8日に行われた池袋暴走事故を起こした飯塚幸三被告の初公判で、11人を死傷させた容疑で飯塚幸三被告が出廷。被害者らに謝罪の言葉を述べる一方で、過失については一切を認めない「無罪」を主張したことで、ネットやメディアから再び「怒りの声」が上がっています。
飯塚被告は公判内でも「ブレーキを踏み続けていた」と主張するとともに、「車に不具合があった」ことを改めて主張。
事故を起こした車は「ブレーキに異常なし」という結果も出ているトヨタ製のプリウスですが、これまでに340件以上の「ブレーキ異常」「異常加速」の事例がある車だけに何の過失もないのかについては疑う余地があり、飯塚被告の主張が本当である可能性も捨てきれないのです。
「プリウスのブレーキが効かない」事故例は?
国土交通省の「自動車リコール・不具合情報」サイトで報告されているプリウス(α、プリウスPHV含む)の「ブレーキ装置」の不具合情報を検索してみると、
不具合が報告されているのは2003年〜2008年12月の期間中に14件、2009年1月〜2015年12月の間に237件、2016年〜現在までの間に93件。
事例も様々でありながら、散見されるのは
・ブレーキで減速していると加速するような感じがする
・ブレーキの効きが著しく悪くなった
・ブレーキを下まで踏み込んだが止まらず、衝突して止まった。
・ブレーキが効かず、衝突を避け横転させた。
などの「ブレーキが効かない異常」の事例。さらに、「一定時間だけ効かなかった」「エンジンをかけなおしたら正常に戻っていた」といった報告も、1件2件のみならず複数報告が見られます。
さらに、リコールのためディーラーに持ち込み、「整備してもらった後ブレーキの効きが著しく悪くなった」という例まであり、こうした不具合の報告を見ていくと、先の池袋事故でトヨタ側が出した「異常なし」の回答の信頼性にも疑問が生じます。
事故の報告例
ブレーキペダル踏み直してもブレーキ効かず
〈2012年06月11日、ETC出口で段差を乗り越えたところ、突然ブレーキが利かなくなり、ブレーキペダルを数回踏み直したが回復しなかった。一度ブレーキペダルから足を離し、アクセルペダルを軽く踏んでからブレーキをかけてみると、通常通り回生ブレーキで減速が行えた。(トヨタプリウス2009年09月購入・総走行距離85,000 Km)〉
ブレーキで加速・ペダル踏み込んでも効かず衝突
〈2012年02月27日、停止位置に向けてブレーキ操作して減速した後、完全に停止するため再度ブレーキペダルを踏み込んだ途端にエンジン回転数が上昇し、2~3回強くブレーキペダルを踏み込んだが止まりきれず、建物に衝突して停止した。(トヨタプリウス 2010年11月購入・総走行距離8,000 Km)〉
電源を落としたら異常が消えた
〈交差点でゆっくりとブレーキをかけたが、全く踏み応えがなく、一番下まで踏み込んでしまった。サイドブレーキペダルを踏み込んだが、全く効き目なく、思い切って左に逃げようとハンドルを回そうとしたが、ロックされていて、回らなかった。やっとのことで停車後、電源を切り、落ち着いてからスタートボタンを押したら、ハンドルとブレーキ共にいつもの状態に戻っていた。(トヨタプリウス 2010年09月購入・総走行距離90,000 Km)〉
ブレーキ効かず、強い踏み込みでABS装置が作動して強制ストップした
〈高速道路を走行中、渋滞箇所にさしかかったので、後続車に減速の注意喚起をするために、軽くブレーキペダルを4~5回踏み、ブレーキランプを点滅させてから、ゆっくりペダルを踏みこんで減速しようとしたところ、ブレーキがほとんど効かなかった。パニックになってあわててペダルを強く踏みこんだところ、急に制動力が回復。ABSによるガガガっという振動とタイヤのスリップ音ともに停止した。(トヨタプリウス 2019年09月購入・総走行距離800Km)〉
なお、池袋事故で事故を起こした車両は2008年に購入したものであることが分かっています。
池袋事故が発生した2019年5月には千葉県市原市で保育園児と引率教諭がいた公園に65歳男性の運転するプリウスが突っ込み、園児を守った保育士が右足を骨折する重傷。容疑者は「アクセルを踏んだ覚えはない。突然、車が急発進した」と供述。
さらに、2016年2月にはJR大阪駅北側の交差点で47歳男性が運転するプリウスが猛スピードで暴走。歩行者の男性ら11人が死傷(被疑者死亡)する大事故も。
「プリウスミサイル」という名がより叫ばれる様になったのもこの辺りからですが、依然、重大事故に関しては未だ「アクセルとブレーキの踏み間違い」という見方が強く、一時ブレーキ不具合でリコールを発表したTOYOTAも、不具合による事故は発生していないとコメントしています。
トヨタ自動車は7月24日、『プリウス』など13車種2万2431台について、ブレーキに不具合があるとして、国土交通省にリコール(回収・無償修理)を届け出た。
対象となるのは、トヨタ『プリウス』『プリウスPHV』『C-HR』『RAV4』『カムリ』『カローラスポーツ』『クラウン』『ジャパンタクシー』、レクサス『UX250h』『ES300h』『LS500』『LS500h』、ダイハツ『アルティス』の13車種で、2019年4月26日~6月4日に製造された2万2431台。
電子制御式油圧ブレーキのブレーキブースタポンプにて、ポンプモータの構成部品である樹脂製ブラシホルダの成形型が不適切なため、ブラシとの隙間が小さく、ポンプ作動時にホルダが熱膨張してブラシが引っ掛かり、ポンプモータが導通不良となるものがある。そのため、ポンプモータが作動せず警告灯が点灯し、最悪の場合、倍力作用が損なわれて制動停止距離が伸びるおそれがある。
改善措置として、全車両、ブレーキブースタポンプを点検し、該当するものは良品と交換する。
不具合および事故は起きていない。社内からの情報により発見した。
出典:https://response.jp/(「トヨタ、プリウス など2万2000台をリコール ブレーキ不具合で制動距離が伸びるおそれ/)
プリウスの歴史
今やハイブリッドカーの代名詞にもなったプリウスは、1997年12月に初代が発売されて以降、モデルチェンジを重ねながら現在まで販売台数を伸ばしています。
- 初代 (1997年 – 2003年)
- 2代目 (2003年 – 2011年)
- 3代目 (2009年 – 2015年、PHV初代:2012年 – 2016年)
- 4代目 (2015年 – 、PHV2代目:2017年 -)
池袋事故で「不具合が関係」した可能性は
ここまでTOYOTAのプリウスの「ブレーキの不具合」が少なくないことを述べてきましたが、結局のところ、池袋事故の様な重大な事故においてその関係性は否定され続けており、同時にトヨタの隠蔽の可能性も一切話題とはなりません。
弁護士の高橋智典氏はメディアの特集で次の様に因果関係を否定しています。
「ブレーキとアクセルは、基本的に今安全性能が高いので、ブレーキを踏めばアクセルと同時に踏んでいても減速したり止まったりする様に設計されていると聞いている。」
「飯塚被告の供述の様に、本当にブレーキを踏んでいたとすれば、ブレーキもアクセルも壊れていなければこの事態は起きないはずなんです。」
そのため、コメンテーターとして参加した高橋智典氏の意見としては「アクセルとブレーキの踏み間違いの可能性が高いだろう」という見解を示しているというのです。
一方で、加害者心理として「結果がひどいために、自分が犯した罪を認識するほど、自分はブレーキを踏んだという意識にすがってしまい(踏み間違いだとしても)本人は本気でそう思っている(故に主張を曲げることがない)」とも話しています。
実際に国土交通省の「自動車リコール・不具合情報」サイトでも、「重大な事故」は報告されていないために関連づけるのが困難であるといえます。
しかし、先の不具合報告が一歩間違えば重大事故となった可能性や、その症状の様子を考えれば、飯塚被告をパニックにするだけの軽微な不具合が起きたこともまた否定はできないのではないでしょうか。