2026年7月22日/社会・時事 × 科学・検証
「子どもからSNSを取り上げれば、安全になる。」
そう考えたくなる出来事が、この数年で相次いでいます。
SNSで募集された闇バイトに高校生が巻き込まれた事件。再生回数を稼ぐために危険な迷惑行為を真似する若者たち。誹謗中傷による心身への被害や、個人情報の拡散。スマートフォン一つで世界とつながれる時代は、子どもに新しい可能性をもたらした一方で、かつてなかった危険も生み出しました。
こうした危機感を背景に、世界ではいま「子どもとSNSを切り離そう」という動きが急速に広がっています。
2026年7月、フランス議会は15歳未満のSNS利用を禁止する法案を可決しました。前年には、オーストラリアが世界で初めて16歳未満を対象とした利用禁止を導入しています。英国やEUでも規制強化の議論が進み、「未成年のSNS利用」は世界共通の政策課題となりつつあります。
一見すると、この流れは当然のようにも思えます。
危険な場所から子どもを遠ざける。それは親としても社会としても、ごく自然な発想だからです。
しかし、ここで一つ疑問が浮かびます。
SNSを禁止すれば、本当に子どもは守れるのでしょうか。
世界で最初に禁止へ踏み切った国では、すでにその「答え合わせ」が始まっています。
フランスが15歳未満のSNS禁止に踏み切った理由
フランスが問題視したのは、単なる「スマホの使い過ぎ」ではありません。
議会で可決された法案の背景には、子どもたちがSNS上で有害なコンテンツへ接触するリスクの高まりがあります。
報道によると、政府や規制当局は、自傷行為や自殺、薬物、暴力、性的コンテンツなどがアルゴリズムによって次々と推薦される仕組みに強い懸念を示しました。
特に注目されたのがTikTokです。
フランスの視聴覚・デジタル規制機関「Arcom(アルコム)」は、TikTokの推薦システムについて、「利用者の反応を優先する結果、より極端で刺激の強い動画が表示されやすい」と指摘しています。
CNNによると、12〜17歳のフランスの子どもは、平均して1日1時間以上をTikTokで過ごしているとされます。
フランス国内では、有害なコンテンツを視聴した子どもが自殺したとして、遺族がTikTokを提訴したケースもありました。
さらにマクロン大統領は、学校で起きた刺殺事件などを受け、「SNSが若者の暴力性を助長している可能性がある」と繰り返し発言し、EU全体での規制強化を求めています。
つまり今回の法案は、「スマホ依存対策」というよりも、子どもを危険な情報環境から守るための安全対策という意味合いが強いのです。
もちろん、この動きを歓迎しない声もあります。
一部の議員は、「子どもを守る」という目的には賛同しつつも、「禁止という手段は行き過ぎではないか」「デジタル社会への適応を妨げる」と批判しました。
つまりフランス国内でも、「守るべきだ」という点では一致しながら、「どう守るか」で意見が分かれているのです。
世界で広がるSNS禁止の流れ
フランスは決して特別な存在ではありません。
未成年のSNS利用を制限する流れは、いま世界中へ広がっています。
最初に大きく動いたのはオーストラリアでした。
2024年、世界で初めて16歳未満のSNS利用を禁止する法律を成立させ、2025年末から本格的な運用を開始しました。
法律では、TikTokやInstagram、Facebook、X(旧Twitter)などの事業者に対し、利用者の年齢確認を行う義務を課し、違反した企業には高額の制裁金を科す仕組みが導入されています。
子ども本人ではなく、サービスを提供する企業側へ責任を求めた点が特徴でした。
その後も、インドネシアやマレーシアが年齢制限の強化を打ち出し、EUでも子どものオンライン保護を目的とした制度づくりが進められています。
英国でも16歳未満への規制強化が検討され、ドイツでも年齢制限の議論が始まりました。
背景は国によって多少異なりますが、共通しているのは、「SNSが子どもの生活に与える影響が無視できない」という危機感です。
これは一時的なブームではなく、世界規模で進む政策の変化と言えるでしょう。
日本でも子どものSNS問題は他人事ではない
こうした議論は、日本にも無関係ではありません。
近年、日本で特に深刻視されているのが、SNSを通じた犯罪への勧誘です。
象徴的なのが、闇バイトをめぐる事件です。
2026年に報じられた栃木県の強盗殺人事件では、16歳の高校生がSNS経由で募集に応じたあと、「断れば家族を殺す」と脅され、事件への関与を強いられたとされています。
一度応募すると、身分証の画像などをもとに脅迫され、抜け出せなくなる――。
こうした手口は、ITジャーナリストらも以前から警鐘を鳴らしてきました。
また、迷惑動画や「バイトテロ」も後を絶ちません。
再生回数や収益を狙って過激な動画を投稿する大人の存在が、未成年による模倣行動を誘発しているとの指摘もあります。
炎上すれば、投稿者本人だけでなく、学校や勤務先、家族まで巻き込まれるケースも少なくありません。
さらに、SNSを通じたいじめや誹謗中傷、性的被害、個人情報の流出も社会問題となっています。
こうした現実を見れば、「まずは子どもをSNSから遠ざけよう」という考え方には、十分な説得力があります。
実際、日本でも14歳未満のSNS利用禁止に賛成する声は少なくありません。
では、その方法は、本当に効果があるのでしょうか。
世界で初めてSNS利用禁止にしたオーストラリアの、その後は
この問いに対して、世界で最初に答えを出そうとしているのがオーストラリアです。
同国は、16歳未満のSNS利用を法律で禁止し、事業者に厳格な年齢確認を義務づけました。
施行後には、数百万件規模のアカウント停止も行われ、政府は制度の実効性を高めるため、複数のSNS事業者への調査や監督も進めています。
一見すると、規制は順調に進んでいるように見えます。
しかし、その一方で、研究者たちが追跡したデータからは、少し意外な現実も見えてきました。
法律ができても、多くの子どもたちはSNSを使い続けていたのです。
(第2回へ続く)


















