子どもの水泳は必要?中学校の5校に1校で授業なし、集中力・体力・水難事故を研究で検証

中学校の5校に1校では今、水泳授業が行われていません。

文部科学省の調査では、2025年度に水泳授業を実施しなかった中学校は22.8%に上りました。また「水泳部」も外部委託・校外クラブへの移行が始まり、水泳の機会そのものがこれまでよりも身近ではなくなりつつあります。背景には、学校プールの老朽化や管理負担、暑さや安全面、教員の指導体制などのさまざまな事情があります。

今回は水泳が子どもの成長に与えるメリットを改めて考え、子育ての上で一つの選択肢となるようまとめました。

「子どもに水泳は必要?」親が期待することとは

そもそも、子どもにとって「泳げること」には、どんな意味があるのでしょうか。

親が子どもにスポーツをさせる理由はさまざまです。健康で強い体になってほしい。大会や記録を目標に切磋琢磨してほしい。スマホなどの誘惑から離れ、熱中できる運動として親しんでほしい。「できなかったことが、できるようになった」という自信や達成感も経験してほしい、命を守るために、泳げるようになってほしい。など。

水泳には体を動かす習慣をつくれるだけでなく、水の中で自分の体を扱う技能を身につけられ、さらに大人になっても好きな時に、好きなペースで続けられるというメリットがあります。

さらに文部科学省でも水泳授業には「水に親しむ」「泳法を身につける」といった教育的な意義に加え、水難事故から自分の命を守る能力を育てる意味があるとしています。

では、科学的に見たときは、水泳にはどこまでの効果が期待できるのでしょうか。「集中力が上がる」「体幹が鍛えられる」といったイメージだけではなく、運動と認知機能、水泳とメンタル、水難事故から身を守る力、そして学校水泳の変化まで、報告されている研究から考えてみます。

水泳を含む運動、科学的に裏付けられていることは?

子どもに運動をさせる一番の理由としてまず思い浮かぶのは、体力づくりでしょう。

しかし、運動にはもう一つ重要な側面・・認知機能を養う働きがあります。

2025年に発表された大規模なアンブレラレビューでは、133件のシステマティックレビューと2724件のランダム化した比較試験で約25万8000人を対象に、運動と認知機能の関係が調査されました。

アンブレラレビューは、複数の研究結果をさらにまとめて検証する方法。膨大な数の研究を横断して「運動すると認知機能はどう変わるのか」を確かめており、高い信頼性を持ちます。

その1・認知機能を支える→集中力のアップにも期待

その結果、運動は全般的な認知機能、記憶、実行機能を改善する方向に働くという結果が得られました。

認知機能とは、注意力、実行力、判断・思考力、記憶力などの外部からの情報を見て・聞いて・感じ取り、脳で理解して判断や行動につなげる一連の働き(知的機能の総称)を指します。

・目標に向かって行動をコントロールしたり

・不要な情報を抑えたり

・状況に応じて切り替えたりする能力

といったもので、勉強や仕事など、目の前のことに取り組むための認知機能とも関係しています。

ただし厳密に言えば、健常な成人における効果はごくわずかになると指摘する別のアンブレラレビューもあり、効果の大きさについては研究者の間でも議論が残っています。

もちろん、この研究は「水泳で」に限定していませんが、いわゆる「水泳で頭が良くなる」という通説も、全身運動で心肺機能を高め、脳の血流も増える水泳という性質から、科学的に矛盾しない範囲で、期待してよいと言えるのではないでしょうか。

その2・体幹が鍛えられる

水泳では、水中で身体を効率よく進めるために、手足だけでなく体幹によって身体の位置を安定させることが重要となり、よく使うことになります。

実際、クロールを行う際の筋肉活動を調べた系統的レビューでは、腹直筋や脊柱起立筋などの体幹筋が泳ぎの動作に関与し、体幹が脊柱の安定や姿勢のコントロールに役立つ、と言われています。

それだけですぐに姿勢が良くなるとは断定できないものの、水泳を続けるほど体幹が強くなることは期待して良いでしょう。

精神が安定する

その3・水難事故のリスクを下げる

水泳ならではの裏付けとして際立つのが、命を守るスキル。

泳ぐ能力だけですべての水難事故を防げるわけではありません。しかし、水に浮く、移動する、水中で呼吸をコントロールするなどの基本的な水中技能は、水の事故から身を守るための重要な能力の一部です。

2025年に発表された子どもの基本的な水泳・水安全技能のシステマティックレビューでは、33件の研究が検討され、WHOも子どもへの基本的な水泳・水安全教育を強く推奨しています。

乳幼児を対象にした研究では、正式な水泳指導を受けた子どもの溺死リスクは受けていない子どもに比べて88%低いという結果が出ており、2025年の研究でも、水泳指導と溺水による死亡率低下との関連が確認されました。

その4・不安が軽くなる

2025年のシステマティックレビュー・メタ解析では、子ども・青年を対象とした運動介入によって、不安症状が中程度低下したと報告されています。

研究者も、運動は子ども・青年の不安を下げるための有望な方法だとし、2026年のアンブレラレビューでも、子ども・青年の身体活動と不安・抑うつの改善との関連が検討されています。

こうした情報から、水泳にも活動による心理面へのメリットが期待できると言えます。

科学的に証明されていなくても「口コミ」で期待されること

水泳について調べると、

「水温の刺激で免疫力が高まる」

といった説明も見かけます。水泳が全身を使う運動であることは確かですが、断定するには、競技や泳法、頻度などを考慮した研究が必要です。

個人差があり科学的には証明されていませんが、水泳を進める人の口コミの中には

「楽しみができるようになった」「睡眠の質が良くなった」「体型が変わり周囲の人間関係も良くなった」「ポジティブになった」と言った声が聞かれます。

「できなかったことが、できるようになる」――水泳には達成感もある

そして、親が子どもにスポーツをさせる理由として、もう一つ忘れたくないものがあります。

それは「できた」という経験です。

最初は水に顔をつけることさえ怖かったり、浮くことができない、5メートルしか泳げないところから始め、練習を続けるうちに10メートル、25メートルと進めるようになる。これは競技として勝つこととは違う、非常に分かりやすい成長の経験です。

スポーツでは、練習して技能を身につけ、以前できなかったことができるようになるというステップアップが経験できます。

その意味では、水泳も子どもが努力と成長を自分自身で確認しやすい活動の一つと言えます。

水泳は「一生できる」子どもの習い事に適性は高い

水泳のもう一つの特徴は、競技としてだけではなく、レクリエーションや健康づくりとして長く続けられることです。

子どものころに身につけた泳ぐ技能は、大人になってからも失われません。ブランクで一時的に体力が落ち、フォームが崩れることはあっても、再び継続することで感覚を取り戻したという人も少なくなく、自分のペースで運動量を決められることも大きな魅力。

それでも、水泳は「子どものときだけやるスポーツ」ではありません。

・競技を引退しても、健康づくりとして続けられる。

・大人になってから泳ぎ始めることもできる。

・高齢になってからも、水中運動という形で身体活動を続けられる。

つまり水泳は、「子どもの習い事」ではなく、「一生使える身体技能」を身につける機会として考えることもできます。

子どもの水泳は必要?

ここまでの研究を整理すると、水泳については「何でも科学的に証明されている」というわけではありません。

「勉強ができるようになる」

「免疫が上がる」

などと言った説明には根拠が十分でな鋳物や、言い切るには無理のあるのが正直なところ。

それでも、運動には認知機能を支える効果がある。

水泳は心肺機能や運動能力などの体力づくりに役立つ可能性がある。

水泳では体幹を含む全身の筋肉を使う。

運動は子ども・青年の不安を軽減する可能性がある。

水泳・水安全教育は、水の中で自分の身を守る技能を身につける機会になる。

という部分には、それぞれ研究上の裏付けがあります。

最も大切なのは、水泳に限らず子どもが身体を動かす機会と、水の中で自分の身を守るための技能をどう確保するかです。

今回確認した水泳の効果は、水泳に時間を割くだけの価値を与えてくれます。身体を動かす選択肢の一つとして、水泳を考えてみても良いかもしれません。

学校のプールや部活動の形が変わり、こどもたちが水泳をする機会もこれまでとは違うものになろうとしています。

学校で泳ぐ機会が減っていく今、「水泳を習わせるべきか」だけではなく子どもが泳ぐ機会そのものをどう残していくかを考えることが重要なのかもしれません。